ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー
1800年 油彩・カンヴァス ロイヤル・アカデミー蔵 © Royal Academy of Arts, London; Photographer: Prudence Cuming Associates Limited

 廃墟に美を見る視点は現代人には自明だが、風景画の誕生自体が遅かったヨーロッパにおいては、それまでにない新しい発見だった。過去の栄光、荘厳、崇高、ある意味、恐怖と結びついた圧倒的な美が見出されたのだ。ターナーの本作もその代表例の一つ。ここにはウェールズの暗い歴史が仄めかされている。13世紀、兄弟間での熾烈な戦いのすえ勝利した弟ルウェリン・アプ・グリフィズが、兄オワインを20年以上もドルバダーン城に幽閉した。だがそのルウェリンもエドワード一世軍に敗れ、ついにウェールズはイングランドに征服されるに至った。画面前景では、オワインが後ろ手に縛られ兵士らに引き立てられているが、それはむしろ点景でしかない。絵の真の主人公は、荒涼たるウェールズの山頂に建つドルバダーン城の無気味な廃墟だ。窓の少ない石造りの円筒形キープ(要塞)が見る者を血なまぐさい中世へと誘い、時の無常や滅びの美学をいやでも感じさせる。