チャールズ・シムズ
1918-19年頃 油彩・カンヴァス リーズ美術館蔵 ©︎ Leeds Museums and Galleries (Leeds Art Gallery) U.K. / Bridgeman Images

 イギリスのヴィクトリア朝時代には、産業革命による急激な都市化や功利主義のいわば反動で、超自然的なものへの憧れが高まった。妖精や幽霊の存在を信じる者がそれまで以上に増え、妖精画も黄金期を迎えている。シャーロック・ホームズの作者コナン・ドイルさえ、少女たちがいたずらで制作した合成写真を本物と信じ込んだ(有名なコティングリー妖精事件)。ちなみにドイルの父も伯父も妖精画家だった。本作のシムズも多くの妖精を描いている。ここでは、森の中で憩う母子のところへ小さな妖精たちがわらわら現れ、服をどこかへ運び去ろうとしている。不思議な出来事のわりに母子の反応は静かで、妖精自体への驚きは少ないような気がする。だが背景の無気味な森の描写に注目する評論家もいる。シムズの人生とリンクさせての分析だ。順調な画家生活を送っていたシムズは、第一次世界大戦で長男を失い、自身も戦争画家として戦地で悲惨な状況を目の当たりにした。帰郷同年に描いたのが本作なのだ。この後徐々に精神を病んでゆき、53歳で入水自殺する。